counter

山口瑠美「想い出酒場」 日本酒ソムリエの資格も持つ女性歌手が繊細に表現した、お酒の歌


かつて愛する人と一緒に来た酒場を
今日は一人で訪れた女。店はあの頃と何も変わっていない。
ただ違うのは、あの人がいないこと…。

山口瑠美の新曲「想い出酒場」(2017年2月22日発売)。
女が酒場でひとり酒、なんてシチュエーションが今時どれだけ実在するかは分からないが
酒を題材にした演歌の、王道の世界である。

昔好きだったあの人は今どうしているだろうか。せめて幸せに暮らしていてほしい…。
ふと、そう考えてしまう瞬間は誰にもあるだろう。

お酒が好きで、2014年に趣味で「日本酒利酒師」
いわゆる日本酒ソムリエの資格を取っているほどの山口瑠美。
ただし大酒飲みというわけではなく、知人・友人と酒を交わしながら
話をしている時間が好きなようである。

…いや、やっぱり大酒飲みかな?(笑)

しかし意外にもこれまで、タイトルはおろか、歌詞の中に「酒」が出てくる作品すらなかった。
今回、制作にあたって「酒を題材にした歌をうたいたい」と、
彼女自身がディレクターに希望して実現したものだそうだ。

実は筆者は最初にタイトルを目にした時、ほのぼのと温かいメジャー調の曲を想像していた。
「想い出」とはポジティブなものであり、たとえつらく悲しい経験であっても
時間を重ねれば懐かしく思い返せるようになり、
心の奥でひっそりと、ともり続ける灯りのようなものだと思っているからだ。
(筆者は、「おもいで」が付く歌といえば
 H2Oの「想い出がいっぱい」を真っ先に思い浮かべる世代である)
しかし、この「想い出酒場」はマイナー調(短調)である。少々意表を突かれた。

とはいえ考えてみれば、小林幸子「おもいで酒」も、チョー・ヨンピル「想いで迷子」も、
(演歌とはいえないが)小坂恭子「想い出まくら」も
全部マイナー調だ。「おもいで」とは、演歌・歌謡においては
寂しさを増幅させる装置として働くことが多いのかもしれない。

さて、「想い出酒場」の主人公の女性は
見慣れた酒場の景色に、あの人の面影を求め、ため息をつき、
あまつさえ雨が降り始めて寂しさを募らせる。最後まで笑顔は見えない。
演歌では、たとえ悲しい歌であっても、歌が進むにつれ気持ちが前向きになったり、
明日への希望を持たせるポジティブな言葉が入る作品も少なくないが
この主人公は徹底して不幸なままである。

ちなみに、山口瑠美の2012年以降のシングル作品は、「呼子舟唄」(2015年)を除き
麻こよみ作詞、四方章人作曲、南郷達也編曲という同じ組み合わせで作られている。
名前が広く浸透するまで、根気よく歌の世界観や印象を継続していく、という
制作側の意志の表れであろう。麻こよみ氏による詞は、

夜通し眠れず孤独にさいなまれたり、(名残り月
北国まで捜しに来たのに会えずじまいだったり、(北しぐれ
雨の中で無言のまま後ろ姿を見送ったり、(雨の錦帯橋
別れを決心して背中を見送ったり、(夕顔の坂

と、いずれも救いがない(笑)。
山口瑠美にはこういう薄幸そうな女性がお似合い、ということなのだろうか。
麻先生、たまには幸せな女性の歌も書いてあげてください…。
(勿論ディレクターの注文もあろうし、不幸な女性の歌ばかりうたう歌手は他にもいるが)


「想い出酒場」キャンペーンミニライブにて。2017年3月

前述したように、作曲の四方章人氏も、山口瑠美に提供するのはこれで5作目。
レッスンのため訪れた山口に、四方氏は完成までに何度も書き直した譜面を見せ、
いかにこだわって作ったかを優しく語ったそうだ。彼女はいたく感激し、
恩返しするためにもヒットさせなければ…と決意を新たにしたという。

そういう経緯を知ってあらためて聴くと、この曲、
筆者のボンクラ耳で聴いても、確かによくできている。
なんといっても、いきなり3連符から始まる歌い出しのインパクト。
やや早めのテンポであることに加え、
ほとんどのフレーズの頭が裏拍から始まる(直前に8分休符が入っている)ことで
全体にわたってスピード感が生まれ、飽きさせない仕組みになっている。素人考えで恐縮だが
これらもすべて四方氏が緻密に考えて作った部分であろう、と勝手に想像している。
要所要所に、丁寧なコブシと、しゃくり(あえてやや多め?)を入れた
山口の歌唱も繊細な仕上がりだ。

個人的にピンポイントで気に入っているのは、「ひとり止まり木」の「止まり木」の部分。
「ひとり」でいったん歌の旋律が下り坂に入り、A♭m→F♭と進行して
ベース音が下がるのに合わせて旋律もさらに一緒に下がるかと思いきや、
「止」でいったん「ひ」と同じ音まで戻ってから下がるのだ。
ココの言葉の響きとメロディへの乗り方が絶妙で、心地よく感じて耳に残る。

山口瑠美は、昨年から身体のトレーニングを始め、
体重は一年で10kgほど落としたという。ダイエットというよりは、体力強化・体質改善のため。
今では楽しみつつランニングで一週間に計30km以上は走るそうだから、そのストイックさに頭が下がる。
実はその前からボイストレーニングも行っており、
本人が弱点だと感じていた、声の低音部の強化も図ってきたという。
歌のためには努力を惜しまない人なのである。
この「想い出酒場」では、その成果をハッキリ感じることができるだろう。

歌って心地よいメロディに加えて、「お酒」「思い出」という、より身近なテーマで
カラオケ愛好家の女性にも感情移入してもらいやすい作品だと思う。

・山口瑠美「想い出酒場」の歌詞

 「想い出酒場」山口瑠美

関連記事

関連記事

ページ上部へ戻る