おかゆ「赤いひまわり」1年越しレビュー ~ 呼び名がどうであれ、花は嘘をつかない

赤いひまわり/おかゆ

昭和歌謡に強い影響を受け、幅広い楽曲を歌うシンガー・ソングライター、おかゆ。彼女が2022年4月27日に発売したシングルが、哀しげな曲調の「赤いひまわり」だ。
ひまわりといえば黄色のはずだが、どういうことなのだろう?と興味を引かれるタイトル。決して架空の花ではなく、実際に「赤いひまわり」と呼ばれる花がモチーフになっている。

今これを読んでくださっているあなたは、「なぜ発売から1年もたった今頃になってレビューを書いてるの?」と思うかもしれない。これには理由がある。発売前に聴いて以来、妙なところが心に引っかかっていたのだが、おかゆを応援したい立場でありながらそれを書くことで、せっかくの楽曲に水を差したくなかったからだ。次の新曲「渋谷のマリア」の発売(2023年5月31日)も近づいたので、もう書いても大丈夫なタイミングかと思い、まとめてみた。ひまわりではない「赤いひまわり」は、はたして悲しい存在なのだろうか?

<目次>
本当の愛、偽りの愛
「赤いひまわり」の花とは?
人間の都合でつけられた名前
日常の中に現れる、残酷な瞬間
チトニアの花言葉
本当の愛、偽りの愛

歌の内容は、仕事を通じて知り合い交際していた男性に、実は妻子がいることを知ってしまった女性の悲劇を歌ったもの。1番では仲睦まじい二人の様子が描かれるが、2番で事実が明らかになり急展開。女性は絶望の底へ突き落とされる。
この歌の中で、赤いひまわりは「偽りの愛」の象徴として描かれている。

男性から教えられた赤い花。「赤いひまわり」という名前だが、ひまわりではないことを承知の上で、その花の美しさを二人で愛でていた。だが彼から自分に向けられていたのも、本当の愛ではなかったのだ…。

「赤いひまわり」の花とは?

おかゆが歌のモチーフにした「赤いひまわり」は、北海道 勇払郡安平町(ゆうふつぐん あびらちょう)にたくさん咲いているという。正式な学名は「チトニア」。植物分類学上、ひまわりの仲間ではない。原産はメキシコなどの中南米で、一般には「メキシコヒマワリ」と呼ばれるらしい。観賞用に日本のどこでも栽培されているようで、決して安平町に行かないと見られないというわけではない。ただ安平町において、なかでも合併する前まであった旧「追分町」地域では、この花を町おこしに活用するため、公園や各家庭で積極的に栽培し、「赤いひまわりの里」としてPRしているようである。

人間の都合でつけられた名前

「赤いひまわり」という響き自体はとてもロマンチック。でもこの歌の中では、キレイだけれどヒマワリではない別の花、という立場だ。決してチトニアが嘘をついたわけではなく、花には何の罪もないのに。
植物はずっと昔からその姿で地球上に存在しているだけで(もちろん品種改良などもあるとはいえ)、それを、メジャーな花や植物に似ているというだけの理由で、「○○の代わり」「○○のそっくりさん」という意味の名前で呼ばれてしまうことがある。それは、人間の都合でしかない。

たとえば昆虫や魚にも、「○○ダマシ」とか「○○モドキ」とか「ニセ○○」といった名前をつけられているものがいる。人間に発見された順番がたまたま○○よりも後だったために、そんな不名誉な名前で呼ばれてしまうなんて、彼らも理不尽に感じているのではないだろうか。

日常の中に現れる、残酷な瞬間

主人公の女性は、彼がいつも仕事をしているはずの日曜に、あろうことか家族連れでスーパーで買い物しているところを目撃してしまう。なんとも残酷な描写である。あるいは薄々勘付いていて、確かめにスーパーへ行ったのだろうか。
最初に聴いた時、歌謡曲ではなかなか見かけない「スーパー」という単語に、かなり違和感を覚えた。日常的すぎる。もう少し別の言い方があったのではないかと。でもそれが狙いなのかもしれない。現実を突きつけられる瞬間とは、日常の中にこそ突然現れるものだろうし、だからこそ残酷で、リアルさを増しているように感じた。それにしてもひどい話である。知らなかったとはいえ、女性は不倫をしていた(させられていた)ことになるのだから。あの人にとって私は、ひまわり(=男性の妻、奥さん)に似ているだけの、別の花でしかなかった…。目撃したその場で相手に詰め寄り、引っぱたくような女性ではなさそう。きっと茫然自失で帰り、電話もメールも着信拒否し、ウキウキで2人の旅行の準備をしていた自分を恥じつつ、泣きながらチケットを破り捨てたのではないだろうか。

チトニアの花言葉

私が危惧したのは、この歌が広まることで、安平町の「赤いひまわり」も話題になるかもしれないが、同時に、この花に「偽りの愛」というネガティブなイメージが付いてしまうのではないか…ということだった。もし私がチトニアの含まれた花束をもらったら、贈り主の気持ちをどう受け止めればいいのだろう。この歌を知っているゆえに、余計な詮索をしてしまいそうである。

チトニアの花言葉は、調べた限りでは「幸福」「優美」「果報者」「幸せ者」などで、決してネガティブなものはなさそうだ。チトニアの名誉(?)のためにも、その美しさは決して偽りでも嘘でもないし、ひまわりの名を騙っているわけでもないことを強調しておきたい。

最初に紹介した、実際の花と対面したおかゆのツイートによれば、この花の印象として「どこか悲哀を感じる」そうだ。決してひまわりにはなれないのに、ひまわりを名乗ってしまっているうしろめたさのようなものを感じるからだろうか。いや、チトニアはチトニアらしく、鮮やかな美しさを見せてくれているだけだ。私は、中南米原産だと知ってしまったせいか、濃いオレンジ色の花びらに、ひたすら陽気で強い愛・情熱を感じるのだが、皆さんはいかがだろうか。

ちなみに、ひまわりには「プラドレッド」や「ルビー」という品種があり、こちらは正真正銘の「赤いひまわり」である。ただし、ややダークな赤い色をしている。↓

ヒマワリ プラドレッド

歌の最後に「綺麗な嘘に囚われてたい」とあるように、私も、本物の赤いひまわりよりは、濃く明るいオレンジ色のチトニアのほうが、花としては好みだと思う。本当はひまわりじゃなくても。
 
 

赤いひまわり/おかゆ 「赤いひまわり」桜綴盤/おかゆ

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