二見颯一 「一里塚」レビュー~5周年の確かな足跡となる本格演歌

一里塚/二見颯一

二見颯一 (ふたみ そういち)の新曲は「一里塚」(いちりづか)。2023年4月26日発売。どっしり・ゆったりしたテンポとリズム、明るく力強い曲調の本格演歌です。

ふるさとを離れ、母や、愛しいあの娘を思いつつも、夢に向かって旅を続ける男の気持ちを歌った、いわゆる股旅もの。といっても、合羽に三度笠…といった古風な姿が描写されているわけではなく、現代の若者といった感じ。「おっと」「やめときな」という歌詞はいかにも股旅っぽいですね。使われている楽器も、尺八、ギター、アコーディオン、ビブラスラップ(カーッ!の音)、ダダッダ ダッダッダッ!のリズムなど、まさに王道の演歌サウンド。

二見くんのキャッチフレーズである「やまびこボイス」と呼ばれる伸びやかな高音はもちろんのこと、歌い出しから厚みのある低音が響き、高音も低音も両方楽しめます。演歌界には、力強い高音を響かせる民謡出身の歌手がたくさんいて、「どうだ! こんなにハリのある高音、太い声が出せてすごいだろう!」とグイグイくる場面があり、私なんかは「おー確かにすげえ!」とひれ伏して素直に感動します。ただ同じ民謡出身でも二見くんの場合はやや違っていて、そういう主張が(いい意味で)感じられません。高音だけでなく、全音域にわたって優しい心地よさがあり、ずっと聴いていたいと思わせてくれるのです。この「一里塚」を聴いて、あらためてそう感じました。

さて「一里塚」とは、かつて道の一里ごとに、距離の目印として作られていた「塚」(土盛り)のこと。一里は約4キロメートル。五街道のような大きな街道だけではなく、小さな街道にも作られていたようで、石碑が立っていたり、あるいは大きな木が植えられていたり。調べてみると私の住んでいる地域にも一里塚が残っているようで、意外と身近にあるものなのかも。

一里塚

旅人は一里塚を見て、自分がどれくらいの道のりを歩いてきたかを知るわけです。デビュー5年目(満4周年)の節目を迎えたことで、まずは最初の一里塚までたどり着いた、ということなのでしょう。千里の道も一歩から。旅はまだまだこれから。二見颯一の確かな足跡となる一曲です。

イメージを確立した列車2部作を超えて

昨年(2022年)は、「0時の終列車」と「君恋列車」の2作をリリース。列車をモチーフに、テンポのある楽曲にのせて別れと再会を描き、故郷への郷愁と、都会への憧れと、誠実な恋心を内在する青年という、二見颯一の等身大とも言えるイメージがこの2部作で確立したと思っています。歌詞のストーリーがつながっているとされており、2曲あわせて聴くとより楽しめるものでした。ただ私は「0時の終列車」を、“ははーん、彼女が都会へ行くので二人は別れたんだな”と解釈していたため、「君恋列車」で彼女は青森に行ったことになっているのを知って、あれっ?と思ったのでしたが…。

二見颯一/0時の終列車二見颯一/君恋列車

完成度の高い2部作だったゆえ、次もその延長路線で来るのか、あるいはその匂いを残しつつ歌謡曲寄りの作品を出すのか?と考えていたところ、同じかず翼氏の作詞で、等身大の若者を描いたという共通点はあるものの、「一里塚」は前2作のイメージとは異なる本格演歌になりました。おぉこう来たか!と頼もしい思いがします。歌の中で描かれる主人公の男性像が、現実の二見くんと共に成長しているように感じられたのです。CDジャケットは、デビュー曲「哀愁峠」、3rd「修善寺の夜」に続き、再び着物姿に。曲によって衣装を変えており、今のところ、どちらかのイメージに固めることはしないようですね。

よく知られているイラストの才能だけでなく、幅広い楽曲の知識、コンサートで三波春夫さんの長編歌謡浪曲「豪商一代 紀伊国屋文左衛門」を見事に歌いこなした芸の深さ、ラジオや舞台での賢さ・誠実さがにじみ出るトークなど、二見颯一はわれわれ聴き手の想像をはるかに上回るスピードで進歩を遂げ、次のステージへと向かっているようです。現在24歳。この成長、恐るべし!(≧▽≦)

二見颯一/一里塚「一里塚」二見颯一

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