Amika 12年ぶりのライブ開催 隣り合い微笑み合う私たちの世界(2)


 

第二部:『空白の10年』が育んだ気持ち

 約20分の休憩の後、まずAmikaとたつのすけ氏の2人だけが再入場しステージへ。第二部は、歌詞の半分ほどが「しりとり」で出来ている異色の歌「どうかしてたと言うならば」からスタート。おそらく浮気をしたのであろう彼氏と、それを問い詰めるように重苦しい雰囲気でしりとりしている彼女のシュールな場面が、女性目線で、淡々とした伴奏と不安定なメロディーにのせて歌われる。最後は彼女が「メロン」と言い、わざと負けてあげるという、なんとも意味深なラスト。
 たつのすけ氏も交えて裏話。Amikaはかつてライブで、この曲の途中で「みかん」と間違えて歌ってしまい、曲を続けることができなくなった。その時はライブビデオの収録をしていたのだが、おかげでこの曲はボツになったそうだ。

 ここで、Amikaがあらためてたつのすけ氏を紹介。Amikaの楽曲の多くで編曲を手がけ、長年ステージ上でもサポートしてきたミュージシャン。昨年のライブ(イベントライブに少しだけ出演したのだと思われる)で約10年ぶりに共演したが、まったくブランクを感じなかったとか。今回のライブのために以前使っていた譜面が必要になったが、既にAmikaの手元にないものもあり、それをたつのすけ氏が保管していてくれて助かったそうだ。いろいろな面において、たつのすけ氏の協力がなければ今回のライブが成立しなかったのは間違いないようである。
 そして、ギターの嘉多山信氏をステージへ呼び込む。今回のライブにあたりたつのすけ氏が連れてきた、長年交流のあるミュージシャン。初顔合わせとなったAmikaだが「吸い込まれるようなギターの音で、もうずっと長年一緒にやっているかのような感じです」と絶賛。実は多忙なミュージシャンで、今日も某有名シンガーのライブで演奏した後に駆けつけたという。

 「暗いのか明るいのか分からない曲です」と前置きして「How can I say」。とても優しげな曲調なのに「例えばあたしが今死んでしまったなら」という衝撃的な歌い出しで始まるからだ。でも、いつか私に死が訪れてもあなたには幸せでいてほしいと願う、温かい愛情に満ちた曲である。
 そして「朝方」。恋人と別れた翌朝の弱り切った女性の心情を、リアルに、かつ力強く歌った作品。1stアルバム「揺れる光ない海の底」の1曲目収録で、多くのAmikaファンの心をわしづかみにした曲である。

 Amikaは歌っている間、下や横を向くことはほとんどなく、また目を閉じたまま歌うこともなく、ほぼ常にまっすぐ前を見て歌う。静かな歌、アップテンポの歌を問わず、どんな歌でもだ。歌詞のフレーズに合わせてコロコロと変わる彼女の表情はとても豊か。優しい笑顔だったり、目を大きく見開いたり、眉を八の字にして困った顔になったり。それは恋人のようで、妹のようで、時に母のようでもある。何度もCDで聴いている曲なのに、そんな様子を見ながら聴く歌は、耳だけで聴くよりもはるかに言葉がはっきり心に突き刺さってくる。

 ライブをやっていなかったこの期間(Amika曰く「空白の10年」)について、主にCM音楽を作る仕事をしていた、と説明。当然だがCMは期間限定で流れるものがほとんどで、過去にAmikaが作ったものを、いま我々が聴こうとしても難しい。でもかなり以前に作った大阪の焼肉店「ワンダイニング」のCMは今も関西で流れているという。(Amikaの公式サイトではこれまでに携わったCM音楽作品の一部が紹介されている)

 CM音楽制作は、実際に制作&音源を納品してから世の中に流れるまでに時間がかかるうえ、コンペで採用されたかどうかの結果も知らされず、作ったことを本人も忘れた頃に偶然テレビで見たり、人から教えられたりして「ああそういえばこんなの作った」と思い出す、という感じらしい。採用されたのかどうか気になって毎日ハラハラしながら過ごしそうなものだが、すぐに次の仕事の作業に取り掛かるため、気にならないらしい。知らないところで採用されて流れているモノがあるかもしれず、作った本人も把握できていないそうだ。
 ただ最新のニュースとして、イオンのインナーウェア「ピースフィット」のCMソングを担当していることをここで発表した(詳細は後述)。公開は始まったばかりらしい。「歌・コーラス・作詞・ナレーションを担当しています。特設サイトもできているみたいなのでよかったら見てみてください」とAmika。

 そういったCM音楽のほか、ライター業もやっていたそうである。Amika自身と子どもたちに食物アレルギーがあるため、マクロビオティックについて勉強し、そういった料理のレシピや食事療法についての文章を書いていたという。ちなみにこの日の会場「キックバックカフェ」は、ビーガン料理なども扱う店であり、以前からAmikaのお気に入りの店らしい。


キックバックカフェのメニュー。どれも美味しそうです

 ただ、比較的最近知り合った友人たちには、シンガー・ソングライターとして歌っていたことは隠していたという。でも「また歌いたい」という気持ちが膨らみ、今回初めて「実は私、歌ってたんです。今度久しぶりにライブをやることになって」と打ち明けたところ、あっさり「知ってたよ」と言われて驚いたそうだ。バレてないと思っていたのは本人だけだったらしい(笑)。
 ある時、子ども連れで訪れていた飲食店で、一般の人から「Amikaさんですよね?」と話しかけられて、子どもの前で激しく動揺してしまったこともあるという。自分の歌は教育に悪いのでは、と考えていたそうで、どうやら子どもたちに自分の曲を聴かせることはしていなかったようだ。確かに、キレイ事ばかりではない男女の間柄を歌った作品が多いので、小さなお子さんに聴かせるには早いかもしれない。ただライブ活動再開にあたり、子どもたちに「ごめん、ママ歌いたいから歌っていい?」と聞いたところ、仕方ないなー、といった態度ながらも「いいよ」と許しを得たそうである。

 どこかで自分の心に歯止めを掛けていたが、やっと、好きなことをやろうという気になったというAmika。新しい楽曲の制作も少しずつ始めているという。そして力を込めてこう宣言した。

「来年、またライブをやりたいと思っています」

 大きな拍手が起きる。

 次の曲は「オレンジの匂い」。オレンジのリップクリームをつけ、別の女性の存在を気にしつつ彼の気を引こうとする女性。可愛らしい中にも艶めかしい色気が見え隠れする。
 そして「一日」。彼からの一方的な電話の言葉が心に引っ掛かったまま不安な夜を過ごし、それでも出かけて事務的に用事を済ませ、帰宅して食事をする。世間と乖離している自身を突き放して客観的に描いた視線が秀逸だが、「誰かが殺された記事」など強烈な言葉もあり、救いがない。いったいAmikaはどんな気持ちでこの曲を書いたのだろう。

 次が最後の曲であることが告げられる。

「お久しぶりです、と挨拶しているうちにもう最後の曲になって、私がいちばん驚いています」

 そして「いま夢を追いかけている方、夢を忘れてしまっていたけれど思い出した方に贈ります」と前置きして、「ふたつのこころ」

 歌い始めてからたつのすけ氏が促し、これまでずっと行儀よく見ていた客席から、今日初めての手拍子が起こる。

──自信がない日も 見失う時も いつでも
 磁石が指すように 求める場所にはたどり着ける
 ふたつの心で いつも強く願うなら

 

 カラダとアタマに、こころがある。素直にその「ふたつのこころ」で強く願えば、自分が本当に行きたい場所をおのずと見つけられる…。どうするべきか迷う時、踏み出す勇気が出ない時、この力強い曲に何度も背中を押された人は多いに違いない。私を含めて。
 拍手の中、何度もお辞儀しながらステージを降りるAmika。その拍手がやがて手拍子へと変わり、アンコールへ。
 
 
次ページ:(3)アンコール:ある告白と決意、そして約束
 
 
(1)第一部:ご無沙汰しております
(2)第二部:『空白の10年』が育んだ気持ち
(3)アンコール:ある告白と決意
(4)あとがき:歳月を経てなお、変わらぬ歌声を聴ける喜び

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