Amika 12年ぶりのライブ開催 隣り合い微笑み合う私たちの世界(3)
- 2017/11/11
- イベントレポート
- Amika, KICK BACK CAFE, ライブ
アンコール:ある告白と決意、そして約束
再びステージに戻ったAmika。ここで意を決したように、言葉を選びながら語り始めた。
まず、この事を皆さんの前で話すべきかどうか最後まで迷ったこと。このライブ開催を告知(7月6日)して以降、その後の経過や、ライブの詳細を随時報告すべきなのにブログをほとんど更新できず、気にしていたこと。
(本人はそう言うものの、ツイッターではライブを心待ちにするファンに随時コメントを返すなどしており、空白期間があったという実感はなかったのだが)
ライブ開催を告知し、さぁやるぞ!と思った矢先に、突然の体調不良に見舞われたという。何事かと思って検査したところ…。
「実は、妊娠していることが分かりまして」
大きな拍手が起こり、客席から「おめでとう!」の声が飛ぶ。
この日、Amikaが着ていたのはウエスト部分を絞っていないゆったりしたワンピース。実は最初にステージに上がった瞬間から、前方の客ならひと目でそうだと分かるほどお腹がふっくらしていた。しかしそれよりも、私は間近で十数年ぶりに彼女の歌を聴けている感激で頭がいっぱいになっていたし、声もよく出ていて体調面に不安はなさそうだったので、ライブの間、お腹のことはまったく気にしていなかった。Amikaが語るなら語ればよいし、もし最後までふれなくても構わないと思っていた。
おめでたが発表されたことで、会場はほっこりしたお祝いムードに。しかし、よくよく話を聞いているうちに、実はAmikaが複雑な感情を抱えて今日のライブに臨んでいたことが明らかになる。
Amikaは既に二児の母だが、彼女自身が虚弱体質で、出産は一人目の時も二人目の時も、曰く「命がけ」だったそうだ。さらに今回は年齢のこともあって、かなりの不安を抱えているとのこと。現在進行形でひどいつわりに悩まされているとも。深刻さを微塵も感じさせない表情の裏に、我々には計り知れない重さの不安を抱えてAmikaは今日のステージに立っているのだった。
ライブ当日に向けて気持ちが盛り上がると同時に、体調面の不安も大きくなる中、子どもたちに妊娠を伝えたところ、とても喜んでくれたという。そこで初めて「これらを全部抱えてやっていこう」と覚悟が決まったそうだ。
つまり「歌いたい・新曲を作りたい・ライブをやりたい」という正直な気持ちと、「子どもを無事に産む」という大変な出来事を、両立させると腹を決めたのだった。すると気持ちがすごく楽になったと。
とはいえ、もし病院に行ったら今日のライブも絶対に医者に止められたくらい、体調は万全ではなかったらしい。…そんな状態で、よくステージに立ってくれたものだと心が痛む。
先ほど、第二部で「新しい楽曲の制作も始めている」「来年またライブをやります」と宣言したばかりのAmika。その言葉の裏に隠された意味をここで明かした。
「こうやってせっかく久しぶりのライブをやったのに、来年までライブができないというのは、こういう理由があったからなんです。私… もう一本リリースがあって」
つまり楽曲の新作リリースよりも先に、「出産」という大事な新作リリースが控えているのだった…。Amikaらしいユーモアを交えた表現に、じわじわと笑いが起きる客席。
出産予定は来年の2月か3月とのこと。生まれたら制作作業もできなくなるので、それまでに曲作りをしておきたい、いわば絶対に延ばせない締め切りができたようなものなので、かえって曲作りがはかどりそう、とも。
「そんなわけで、作りながら、育てながら、(つわりを)こらえながら、頑張りたいと思います。ブランクにも飽きたので、走りながら全部やっていこうと決めました。もしよかったらお付き合いください」
拍手で応える聴衆。それは、まさに「ふたつのこころ」で強く願った結果、Amikaが導き出した答えなのだろう。理屈で考えるのではなく、体裁を気にするのでもなく、自分の心の声に素直に耳を傾けて、やりたい事があるなら行けばいい。そう、行くしかないのだ。
「いちばん最後に、明るい歌をやりたかったんですけど、私は明るい歌が非常に限られているので」と前置きして、最後に「愛情」。
──情よりも愛が いつまでも強くありますように
歌い終わり最後の挨拶をしようとして、「はっ!言い忘れてました!」と、ここで「祈りみくじ」の説明。この日会場ではCD「大きな月」(2005年発表の自主制作盤シングル)を販売しており、一枚買うと、この日限定の特典として、たくさんの小さな茶封筒の中から一つを選びもらうことができた。それはAmika手書きのメッセージカード。おみくじのように一枚一枚中身は違っていて、手にとって開けてみるまで何が書かれているかは分からない。ちょっと元気になれるポジティブな言葉が、何十種類も用意されているらしい。妊娠している女性は良い運を持っているのだそうで、実際彼女の身近に良い事が起こった人が何人もいるらしく、皆さんにもその「お福分け」をしたい、と皆の幸せを祈って作ってくれたという。そんな優しい心遣いと遊び心がうれしい。
最後はどうやって締めたらいいのか分からない、と助けを求めるように振り返ると、たつのすけ氏が笑顔で「ありがとうございましたと言えばいいんだよ」と促す。正面に向き直るAmika。
「ありがとうございました!」
スタンドマイクを挟んで、右に左にとお辞儀。大きな大きな拍手で送られて退場するAmika。
この場にいた全員が来年また会う約束を交わしたような、心地よい余韻に包まれ、休憩を含めて約2時間のライブは幕を閉じた。
次ページ:(4)あとがき:歳月を経てなお、変わらぬ歌声を聴ける喜び
(1)第一部:ご無沙汰しております
(2)第二部:『空白の10年』が育んだ気持ち
(3)アンコール:ある告白と決意、そして約束
(4)あとがき:歳月を経てなお、変わらぬ歌声を聴ける喜び