Amika 12年ぶりのライブ開催 隣り合い微笑み合う私たちの世界(4)


 

あとがき:歳月を経てなお、変わらぬ歌声を聴ける喜び


会場となったKICK BACK CAFEの最寄駅・京王線仙川駅。「せんがわ」と読む

 ライブ会場は指定席ではなく、17時の受付開始時点で並んだ順に整理券を配るという形式。受付の1時間ほど前から行列に加わった私は、幸運にもかなり前列に座ることができた。
 キャパを一人でも多くするためか、ステージの目の前ギリギリまで観客用イスが並べられており、最前列からAmikaのマイク位置まではおそらく2メートルほどしかなかったと思う。私がAmikaのライブを見るのはたぶん5回目くらいだが、これまでの会場は中規模以上のライブハウスばかりで、こんなに近くでまじまじと見たことはなかった。
 私の視線を遮るものは何もなく、縦巻きにした明るいブラウンの髪、右手首の真珠っぽいブレスレット、左手親指の指輪、こちらが照れるほど豊かな表情の変化や、茶色がかった瞳までよく見えた。この日Amikaはほんの少しヒールのある靴を履いていたが、そういえば以前はステージで裸足で歌っていたことや、渋谷のライブハウスで歌い終え退場していくAmikaがすぐ近くを通った時、思った以上に小柄で驚いたことなど、さまざまな記憶がよみがえった。

 多くの音楽アーティストは、長年歌っているうちに、歌いまわしが変わったり、原曲とはまったく違うアレンジにしてみたり、といったことをやりがちだ。でもAmikaは、極めてオリジナルに忠実に歌ってくれた。演奏も、キーボードとギターのみとはいえ、変にアコースティック寄りにアレンジすることもなく、CDよりもややゆったりめのテンポで、安心して聴いていられる演奏だった。それはやはり、Amikaと何度も一緒にステージを経験してきたたつのすけ氏、そしてAmikaの呼吸に合わせてくれた嘉多山氏ならではのものだっただろう。過去にライブを見たことのある人も、今回初めて生歌を聴いた人も、満足のいく演奏だったと思う。

 Amikaはリハでも手を抜けず、つい全力でやってしまうと自分で言っていたし、今日のために入念に調整してきたのだろう、実際、声がよく出ていたと思う。ライブの最後に、実はつわりに苦しんでいて体調は万全ではないと聞かされて驚くわけだが、声からは微塵もそんなことを感じさせなかった。
 それから、些細なことかもしれないが、久しぶりに歌う曲ばかりのはずなのに、Amikaが「懐かしい」とか「昔作った曲なので、今歌うのは恥ずかしい」といった意味のことを一切言わなかったのもうれしかった。お気に入りの曲なのに、歌手本人から「過去のもの」として軽く否定されてしまうのはリスナーとしてとても悲しいことだからだ。力強さを増しながらもイメージの変わらぬ歌声によって曲がよみがえり、10数年の渇望が一気に満たされた。

 Amikaが歌うのを見ながら、私はいろんな思いがこみ上げ、胸が熱くなっていた。
 AmikaがCM音楽を作り、結婚し、家族が増え、育児をしてきたのと同様に、今日この場に集まった人たちそれぞれがきっと、歳月を重ねる中で、環境が変わり、出会いと別れを経験し、さまざまな壁に直面し、乗り越えてきたのだ。ここにいる皆が、あなたに会えない間も、あなたの歌を大切に心の中に抱えて、生きてきたんだよ。アーティストの引退・解散等さまざまな理由で、もう二度とライブで聴くことのできない曲が、世の中には無数にある。でも今、まぎれもなくAmika本人が私たちの目の前に再び現れ、こうして歌ってくれている。こんな幸せな時間があるだろうか。
 月並みな表現だが、夢のような時間であった。

 ただ一度だけ、どの曲だったか忘れたが(「朝方」だっただろうか?)、Amikaは歌い終わった後に、客席に背を向けてちょっとだけ涙をぬぐうようなそぶりを見せた。あれはどういう感情の動きだったのだろう。

 公式サイトに載せられたAmikaの言葉によれば、次回のライブは早くても来年の9月以降だという。10数年待ったことを思えばどうということのない期間だ。新作と出産、二つの「リリース」が無事にうまくいくこと、何よりAmikaとお腹のお子さんの健康を祈りながら、新しい歌を聴かせてくれるであろう、次のライブを気長に待ちたい。

 ステージ上でふれていた、Amikaが歌っている「ピースフィット」の紹介動画は、後で調べると商品特設サイトで公開されていた。これまで彼女が携わったCM音楽は、実際に流れる部分が短かったり、音量が小さかったりで、Amikaが歌っているとは分かりづらいものも多かった中、これは楽曲を前面に出した作りで、「あ!Amikaだ!」とハッキリ分かる歌になっている。作曲は別の人が手がけているらしいが、軽快なリズムでハッピーな気分になれる曲。フルコーラスたっぷり堪能した後に流れるナレーションもAmika本人が担当している。

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 ライブ会場となったキックバックカフェのスタッフの丁寧な対応にもふれておきたい。
 予約時は、店に名前と電話番号と人数を伝えたのみで、詳しいことは聞かされていなかった。当日の入場方法や受付の詳細が決まった旨、Amikaの公式サイトで発表されたのはライブ開催の4日前である。私はAmikaのツイッターをフォローしていたのですぐに知ることができたが、その夜、店のスタッフからわざわざ電話があったのには驚いた。当日の受付時間が早まったこと、その時並んだ順に整理券を配布することなどを知らせてくれた。どうやら予約客全員に電話をしてくれたようだ。
 ライブにあたり少しでも席を多くするためテーブルを置かなかったわけだが、自席で食べられるようにと、食事は紙のトレイに置いて持ってきてくれるという形であった。深さがあってしっかりした作りで、ヒザの上に置いても安定して食べることができた。私はガパウをいただいたのだが、大変美味しく、開演を待つ間のワクワク感を盛り上げてくれたことを記しておく。

 さて、会場でCD購入特典となった手書きメッセージカード「祈りみくじ」だが、Amikaが考えたさまざまな言葉が、買った人たちの手にランダムに渡った。にもかかわらず、まるで自分のために書かれたとしか思えないようなピッタリのメッセージが入っていた、という報告がツイッターでいくつもあったようだ。文字だけでなく、これもAmikaが作ったという素朴で可愛らしい絵柄のハンコが押されていた。
 私も会場で「大きな月」のCDを購入し、メッセージカードをもらった。このCDは以前からずっと公式サイトを通じて販売されており、その気になればいつでも買うことは出来たのだが、いつかライブ会場で買おう… とかすかな期待を込めて買わずにいたので、満を持して買わせていただいた。カードにどんな素敵な言葉が書いてあったかは… 私だけの大切な宝物としておきたい。


 
 

セットリスト

Amika Live 2017年9月30日 東京・仙川 KICK BACK CAFE

01 世界
02 ビール
03 ナンを食べに行く
04 ルービックキューブ
05 一枚のガム
06 90%
(休憩)
07 どうかしてたと言うならば
08 How can I say
09 朝方
10 オレンジの匂い
11 一日
12 ふたつのこころ
(アンコール)
13 愛情

・Amikaオフィシャルサイト 「Web Amika」
 amika.jp/

・KICK BACK CAFE(東京都調布市若葉町)
 www.kickbackcafe.jp/
 
 
※今回のライブの直前に公開された「世界」のライブ音源。2016年のもの

(1)第一部:ご無沙汰しております
(2)第二部:『空白の10年』が育んだ気持ち
(3)アンコール:ある告白と決意、そして約束
(4)あとがき:歳月を経てなお、変わらぬ歌声を聴ける喜び

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