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TBSテレビ「演歌の乱~ミリオンヒットJポップで紅白歌合戦SP~」
http://www.tbs.co.jp/program/enkanoran/

9月25日の午後8:54からTBS系で放送されました。

<※追記>それぞれの歌唱曲とレビューを追加して、大幅に改訂しました。

演歌歌手が、その歌唱力をフルにいかしてJ-POPの大ヒット・最新ヒットを歌い上げる歌番組「演歌の乱」
昨年12月、土曜日の昼間に、スペシャル番組として初めて放送されました。今回第2弾が実現したうえ、なんとゴールデンタイムに進出です。

「演歌歌手は歌がうまい」という認識は、何となく皆さんが共通して持っているはず。でも、テレビで演歌歌手が歌っているのを耳にする機会は極めて少ないのが現状です。紅白歌合戦に出場したとしても、歌うのは、演歌ファン以外は知らない最新曲か、過去の名曲。どんなに歌のうまい人が歌っていても、特に若い人にとっては、まったく知らない歌を聴かされるのはつまらないでしょう。

演歌歌手が最新ポップスを歌う機会…というと、ものまね番組であったり、最近だとカラオケバトル番組であったり。「コブシを回して演歌っぽく歌ってみてください」と言われて大げさにコブシを付けて歌うことを要求されたりと、どことなく色モノ扱いされることもしばしばでした。
でも、おふざけナシ、本気モードで、誰もが知るヒット曲を歌うのがこの番組。

第1弾の時は、徳永ゆうきがRADWIMPSの「前前前世」を歌ったり、走裕介が秦基博の「ひまわりの約束」を歌ったりしたのがちょっとだけ話題になりました。

第2弾となる今回の出演は…
女性が石原詢子、市川由紀乃、丘みどり、香西かおり、城之内早苗、藤あや子、水谷千重子、杜このみ。男性が、大江裕、角川博、徳永ゆうき、橋幸夫、走裕介、細川たかし、山川豊。

紅組vs白組の歌合戦という分かりやすい形式です。演出はそれぞれ

1.「次に歌ってもらうヒットソングはこれ!」 ※発売年と売上枚数など
2.「それを歌ってくれる演歌歌手はこの人!」 ※経歴や人気のほどを紹介
3.「この曲の難しい所は…」
4.「その難所を克服するために、こんな練習をしました」

という感じで、VTRで曲と歌手の説明があってから、スタジオセットに歌手本人が登場、定位置についてから、緊張気味の表情も見せつつ、歌唱前トークは一切ナシで歌い始める… という流れでした。

では、歌唱順に見ていきましょう。
 

1.丘みどり「CAN YOU CELEBRATE?」

オリジナル:安室奈美恵(1997年)
難所:サビ後半の高音地獄
衣装:「鳰の湖」のCDジャケットと同じ白い着物

2017年の紅白歌合戦に初出場、その発表記者会見で、集合写真撮影の時にはなぜか堂々センターに座った丘みどり。イオン葛西店でのキャンペーンの模様。熱烈なファンから「みどりちゃーん!」の声援。最近はバラエティー番組にも引っ張りだこで多数出演。
おそらくいつも教わっているのであろう、トレーナーの先生のところで、「CAN YOU CELEBRATE?」のレッスンをしているところも流れました。

番組開始早々、視聴者に番組の趣旨を理解してもらい、興味を引き付けなければならない責任重大な1曲目。申し分のないビジュアル(美人女性歌手)と歌唱力。まだ安室奈美恵引退のニュースの余韻が残る中、その代表曲を選んだのもグッドでした。

鳰の湖(4曲入り感謝盤)/丘みどり「鳰の湖(4曲入り感謝盤)」丘みどり
 

2.大江裕「会いたい」

オリジナル:沢田知可子(1990年)
難所:サビで連発される裏声
衣装:ピンクのキラキラジャケット

北島ファミリーの一員。北島三郎もVTRで「裕は器用だから行けると思うよ。挑戦するのはいいことだと思う」と応援コメント。

サビで繰り返される「って~」の部分が高くなりますが、音程が完璧なのはもちろん、声を張って無理やり出すのではなく、終始優しいタッチで歌いました。

今回の出演歌手のうち、大江くんだけはスタジオにおらず、仙台の青葉城の伊達政宗公の像の前から中継で歌いました。コンサートの仕事のため仙台に来ていたそうです。彼だけ事前に収録してVTRを流してもよかったでしょうに、わざわざ他の出演者たちが収録している日時に合わせて中継したようです。生放送の番組ならともかく、収録番組なのに中継って不思議な感じ。

大樹のように/大江裕「大樹のように」大江裕

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
番組冒頭、丘みどりは何の説明もナシにいきなり安室奈美恵を歌いましたが、大江くんは事前に、どこかの楽屋で、番組スタッフから課題曲を知らされる(曲名の書かれたカードを渡される)ところがVTRで流れました。

このように、「まったく知らない or 聴いたことはあるが歌ったことのないJ-POPのヒット曲を、番組から課題曲として指定され、番組収録までに練習してくる」という演出であることが明らかになりました。
 

3.石原詢子「Everything」

オリジナル:MISIA(2000年)
難所:独特なMISIA節を歌い上げられるか?
衣装:濃い海老茶色に、赤と白の桜の花をあしらった着物

紅白歌合戦には2000年と2003年の2回出場。
課題曲を伝えられた石原は「だってMISIAさんですよ。歌うものじゃない。聴くもの」この短いコメントから、MISIAへのリスペクトが伝わってきて、視聴者も共感したのではないでしょうか。
「語尾を伸ばすところの、音符にならないこまかい節回しがすごく多い」と石原。これを、番組では「MISIA節」と呼称していました。…でも「音符にならないこまかい節回し」というのは、まさに演歌のコブシそのものでは? MISIA自身のコブシは、演歌のそれよりも速く滑らかな感じがしますが。

幼い頃から詩吟をやっていた石原は、声量には自信があるそうで。スタッフを前に、♪南に鶴ケ城を望めば~ (※詩吟「白虎隊」)とひと節披露。

石原の歌唱は、ずっしり芯が通っているMISIAの歌とは違い、しっとり、時折かよわさがありました。歌の中の2人の距離感がより遠く、寂しげで、「あなた」へ呼びかける歌詞も、慟哭というか、より切実な感じでした。

詢風 吟詠の世界/石原詢子「詢風~吟詠の世界~」石原詢子
 

4.橋幸夫「涙そうそう」

オリジナル:夏川りみ(2004年)
難関:女性曲の高音メロディーを歌いきれる?
衣装:薄紫シャツ、紺色ジャケット

75歳。芸歴58年。紅白出場19回。これまでに出したシングルは181枚。

番組の趣旨を聞かされた橋さん。あくまで冗談めかして、笑顔でこう言います。「(自分の歌が多過ぎて)人の歌を歌っているヒマはないね。75歳のじいさん捕まえて、これ歌え、あれ歌え、挙句の果てに上手いとか下手とか言われたら、ふざけんな!って気にもなるよ(笑)」

課題曲「涙そうそう」を伝えられると「聴いたことあるよ。ちらっとしか知らないけど。いい曲だね」と感想。「まだ自信はないけど、やるからにはちゃんと歌います。プロですから」

でも「女性曲だから、高音になるから難しい」というのもヘンな理屈。だったらキーを下げればいいだけの話。
橋さんが歌ったのは、夏川りみと同じキーでした。 …というか1オクターブ下だと思います。実際はもっと高い音まで出せるはず。でも自分の音域ギリギリまで使わず、高すぎないキーで歌うことで、優しい感じの「涙そうそう」になっていました。75歳でこんなに安定して歌えるってすごい。なぜか橋さんだけ、歌い終わった後のコメントを求める場面が一切ありませんでした。カットされた?

君の手を/橋幸夫&林よしこ「君の手を」橋幸夫&林よしこ
 

5.城之内早苗「Hello, Again~昔からある場所~」

オリジナル:My Little Lover(1995年)
難所:大サビ直前の変則的なメロディ
衣装:全身に白い花びら模様をあしらった白い着物

デビュー曲「あじさい橋」は史上初、演歌でオリコン初登場1位を達成。
課題曲を伝えられると、おもむろにスマホで「Hello, Again」の歌詞を検索し、ボールペンで紙に手書きしていく城之内早苗。言葉に出しながら記憶することで歌詞の内容を理解し、気持ちを乗せる。新曲をもらった時もまず最初にその作業をやるのだそうで。最後に出てくる英語の部分をカタカナで書いていて、番組スタッフにツッコまれていました。「だって演歌には英語ないもん!」
移動中の時間も惜しんでタクシーの中で練習。最終仕上げとして、ノドなどの炎症を抑える効果があるという馬肉を食べに。

原曲のマイラバの歌い方を意識しつつ、努めて平坦に歌っていた印象。でも、ところどころの発音に、演歌らしい感情の込め方が見え隠れしていました。
 

6.山川豊「PRIDE」

オリジナル:今井美樹(1996年)
難所:人生初の女性曲に声を乗せるのが難しい
衣装:光沢のあるダークブラウンのスーツ

山川豊は紅白に11回出場。兄は鳥羽一郎。コンサートには女性ファンがたくさん詰めかける色男。課題曲を伝えられると「いやーこれはちょっっと難儀だね…。女性の歌だしね」

演歌ひとすじ37年。実は女性の歌を歌うのはこれが初めて。自宅でギターを持って練習してみるが、苦労している様子。「体で覚えないとダメ」ということで、秘策として社交ダンスの練習スタジオで、「PRIDE」を女性パートナーと踊りながら、体中に染み込ませる。…社交ダンスの特技を見せたかったのですね(アマチュア検定の1級のさらに上、「シルバー」というかなりの腕前です)。

甘くダンディーな声。普段の演歌では色気や男らしさを出す武器となる歌い方を完全に封印して、素直に、優しく歌ったという印象。最後の方は、マイクを両手で包むように持って歌ってました。コンサートでは大体、左手でマイクを持ち、右手は下ろしたままでほとんど動きがないので、大変珍しいシーンでした(笑)。

山川豊 全曲集 今日という日に感謝して『山川豊 全曲集「今日という日に感謝して」』
 

7.市川由紀乃「SEASONS」

オリジナル:浜崎あゆみ(2000年)
難所:短いブいレス(息継ぎ)からのロングトーンを出せるか
衣装:茶色地に、丸や四角がたくさん入った着物

2016・2017年と、紅白に2年連続出場している市川由紀乃。
「SEASONS」はバラード。サビから高音部が続きます。課題曲を伝えられると、「うまく歌える自信はない…。難しいなって思いました」。どこかの小部屋でピアノに合わせて練習。(ピアノを弾いてたのはキングの担当ディレクター?)
サビの直前の「ララーイ」を歌う前、短い瞬間でブレスをするところが大事。…とナレーションが入ってましたが、プロ歌手に「難所」と強調するほどのものでもないと思います…。

個人的には、今回の番組中でいちばん上手かったです。歌としのての完成度が高すぎ。歌声だけ聴いたら、演歌歌手だとは気づかないのではないでしょうか。私はテレビやコンサートで、市川由紀乃が洋邦問わずさまざまな歌をカバーするのを聴く機会がありましたが、どんな歌にも対応して、歌詞の世界観にきちんと沿った歌い方のできる人です。もうノドの基礎からして違うんでしょうな…。終盤は、マイクを持たない方の右手をグッと握ったりと、自然な高揚感が。

柳原可奈子の「あゆの歌を歌う時は、皆ものまねになってしまいがちだけど、こんなにハリとツヤがある声で聴いたのは初めて」というコメントは的確でした。

市川由紀乃全曲集2019『市川由紀乃 全曲集2019』
 

8.徳永ゆうき「Lemon」

オリジナル:米津玄師(2018年)
難所:演歌にはない複雑な歌い方のサビ
衣装:うぐいす色の着物・山吹色の袴

NHKのど自慢で18歳の時にグランドチャンピオンに。2014年の日本レコード大賞で新人賞を受賞。現在23歳ですが、演歌ひとすじ。なのでJ-POPはあまり聴いていないようで、番組スタッフが課題曲を記したカードを渡すと…。

徳永「こめ…」

「米津玄師」の歌手名が読めず。まさかの米津知らず…といじられていました。

でも、今この記事を読んでくださっているあなた、読めますか? 最近よく見かける名前だけど、いまだに読めない…という人、多いのでは? 私もこの番組を見るまで「よねづげんすい」か「よねづげんし」だと思ってました。(^^;
(正しくは「よねづけんし」)

演歌は、一つの音符に一つの言葉(発音)をのせるのが基本。でも「Lemon」は歌詞のメロディーへののせ方が非常に複雑で、覚えるのは大変。もうひとつ、本人が気がかりなことは…

徳永「果物のレモンも苦手なので」
スタッフ「それはどっちでもいいです」

秘策として、やってきたのは教会。「米津さんがこの曲のPVで教会で歌っていたので、米津さんの気持ちになってみたら歌えるんじゃないかと」(徳永)

米津玄師の「Lemon」のMVを、徳永がマネて再現した映像が(笑)。薄暗い教会の座席の後方に一人で座ったり、外国人エキストラたちをバックに歌ったり。今回の番組の中で、いちばん手間をかけたんじゃないかと思えるシーンでした(笑)。櫛形に切ったレモンをかじるシーンも。これがなんと15年ぶりに口にしたレモンだったとか。

曲調自体は力強く、特にサビの高音部は声をガンガンに張って絶叫してしまいそうですが、徳永くんはさすが音域が広く、余裕が感じられました。やわらかく包み込むような、目の前の人に語りかけてるような、言葉を丁寧に伝える歌い方でした。
今年発表された最新曲とあってか、徳永くんの歌ったこの曲が、若い人たちの心を動かし、ネット上で反響がいちばん大きかったようです。

津軽の風/徳永ゆうき「津軽の風」徳永ゆうき
 

9.香西かおり「悲しみにさよなら」

オリジナル:安全地帯(1985年)
難所:ラストの転調した後のサビ
衣装:白と紺色、紺色地に白い木の枝と葉っぱがデザインされた着物

香西かおりは1993年に「無言坂」は、日本レコード大賞を獲得。その「無言坂」は、安全地帯の玉置浩二の作曲なので、この曲を歌うことには縁がある。

「音域の広さがネック。最後に転調して盛り上がるし」と難しさを語る香西かおり。「悲しみにさよなら」を流しながら、なぜかピラティスの教室で肺活量を鍛えていました。

歌の盛り上がりと共に、声量が出すぎてしまうのか、時々マイクを胸の前あたりまで離しながら歌唱。もともと普段から、あまり演歌色の強い曲を歌う人ではありませんが、香西さんはいつもの歌い方をほとんど変えずに歌った印象。
 
香西かおり30周年記念全曲集『香西かおり30周年全曲集~おかげさん~』
 

10. 走裕介「Story」

オリジナル:AI(2005年)
難所:R&Bの複雑なメロディ
衣装:光沢のある白(水色?)に、キラキラしたバラの花の刺繍(?)が入ったスーツ

走裕介は、作曲家・船村徹氏(美空ひばりや北島三郎に曲を提供し、文化勲章も受賞した演歌界の巨匠。2017年死去)の愛弟子。女性客を虜にするイケメン。44歳。
「Story」をあらためて聴いた走は「船村先生だとこういうメロディーにはならない。テイストが全然違う」
R&Bの複雑なメロディーは、船村メロディーで育った走には難しい。…とナレーションが入っていましが、ゆったりとしたバラードなので、一部こまかい符割はあるものの、複雑なR&Bというほどの難しさはないと思います。

走は、なぜか漁船に乗って海へ。海を走る船の舳先に立ったまま歌い、それをドローンで空撮。意味あるのかこのシーン(笑)。「網走で漁師をやっていた。待ち時間があると歌いながらのどを鍛えていた」。原点に戻って、ということのようですが、「Story」とまったく結びつきません(笑)。船を操舵しているようなシーンもありましたが、彼は歌とは関係ナシに数多くの資格を持っており、二級小型船舶免許も持っています。

走裕介は、誠実さの伝わってくる甘い声といいましょうか、本当にイイ声で聴き惚れました。ロックミュージシャンのような、エモーショナルなボーカルが時折顔を出していました。ラストのダメ押しに「fu—」とファルセットで歌ったのもカッコよかった! NHKも「うたコン」などに、ポップスカバーを歌う要員としてでもいいので彼をもっと出してほしいです。

番組ではふれられていませんでしたが、走裕介は高校時代はバンドで歌い、船村氏に弟子入りする前はロックやポップスを歌ってカラオケコンテストで入賞していました。決して演歌ひとすじというわけではないのです。

走裕介 全曲集 男の駅『走裕介 全曲集 男の駅』
 

11. 水谷千重子&杜このみ「White Love」

オリジナル:SPEED(1997年)
難所:交互に畳み掛ける高音サビとハモリ
衣装:黒地に犬や着物(水谷千重子)・白地に扇などをあしらった着物(杜このみ)

友近が、芸歴50年の演歌歌手キャラを演じる水谷千重子。バカ言ってる。

「グループで歌う曲なので、一人では難しい。相方が欲しい。でもいい子がいるの。細川のたかしちゃんから紹介された子でとてもいい声の子がいるの」(水谷)

杜このみが合流。細川たかしの弟子。民謡で鍛えた歌声。2013年にレコ大新人賞受賞。実力とビジュアルとファッションセンスを持ち合わせた人気歌手です。次に紅白歌合戦に初出場する女性演歌歌手は、おそらく彼女でしょう。

友近も上手いですし、二人ともハリのある声なので、二人同時に歌うところはピッタリはまり、聴いていて心地よかったです。主旋律は交代で歌いつつ、サビは2人で交互に。杜このみは伸びのある美しい高音を響かせつつ、コーラスパート(ハモリ)も担当。「この手を はーなさーないーでーねー」の部分など、かなり高音なのですが、これが音程もタイミングもビシッと決まっていて素晴らしかったです。水谷千重子の存在があってあまり目立ちませんでしたが、杜このみがサラッとやってのけたこのコーラスが、今回の番組内で最も難しかったのではないでしょうか。

演歌界(芸能界?)は、キャリアが長いほど先輩として敬われるもの。なので、他の中堅演歌歌手を飛び越えていきなり「芸歴50年」を自称する水谷千重子は、多くのベテラン演歌歌手にタメ口をきけたり、大御所として振る舞ってわがままを通したりできてしまうんですよね。「エンカメ」はそれをうまくいかした楽しい番組だったわけですが、やっぱりずるいなー。
演歌歌手の歌唱力にスポットを当てる今回の番組に、水谷千重子を入れたのはちょっと違うのでは?という印象は拭えませんが、実は主役は水谷ではなく、杜このみを引き立てるのが狙いだったように思います。

くちなし雨情・函館夜景(ピンク盤・DVD付)/杜このみ「くちなし雨情・函館夜景(ピンク盤・DVD付)」杜このみ
 

12.角川博「RPG」

オリジナル:セカイノオワリ(2013年)
難所:速いテンポと、歌詞の多さ。台詞のように語りかける歌い方
衣装:白地に、全身で黒い刺繍で花をあしらったスーツ

角川博は演歌ひとすじ42年。64歳。番組スタッフが課題曲を渡すと、「なるほど…。分かりません」「キーが高い。リズムが取りづらい」と正直な感想。カラオケボックスで練習していました。

聴いて驚いたのは、歌声が若い!本当に若い! 時代劇に出てくる悪代官のような外見(笑)からは想像もつかないほど、声が澄んでいて、サビの高音も伸びがありました。演歌っぽさがカケラもなかった。聴いているゲスト陣も大喜びという感じでした。自分の持ち歌では女歌を得意としている角川博ですが、こんな声でも歌えるんですね。驚きです。
 

13.藤あや子「たしかなこと」

オリジナル:小田和正(2005年)
難所:広い音域&突然始まる高音サビ
衣装:ススキの穂をデザインした黒い着物

57歳で奇跡の美貌、藤あや子。紅白出場21回。
「なんかドキドキするね。複雑ですね。うわっ、サビのところ高っ! 一気にパーンと行きますね。小田さんはさすが、音を当てて行くのがすごく上手」
「練習はあまり好きじゃないんです。(普段から)発声練習すらほとんどしないので、レコード会社や事務所のスタッフは、どこで練習しているの?と思っていると思います」
空き時間や移動時間に、携帯プレーヤーとイヤホンで、ひたすら聴くだけ。取材カメラの前では、声を出して練習することは一切していませんでした。

「自分がどういう歌い方をするのかは想像できない。声を出して初めて、自分はこういう歌い方をするんだ、と気づく。純粋な気持ちで歌うことができるので、その方が楽しみじゃないですか」
要はイメージトレーニングのみ、ということみたいですが、それで大丈夫なんでしょうか?

オリジナルの小田和正が、澄んだハリのある声ながら、感情表現は抑えめにしているイメージがあります。対して藤あや子は、演歌の色っぽい発音やビブラートが随所ににじみ出た「たしかなこと」でした。
 

14. 細川たかし「さよならイエスタデイ」

オリジナル:TUBE(1991年)
難所:ラストの超ハイトーンボイスのサビ
衣装:全身白い(アイボリー?)着物・袴

細川たかし。演歌ひとすじ32年。
東京駅丸の内口付近の路上で、車から降りてきた細川をつかまえた番組スタッフ。番組の趣旨を説明し、番組の大トリをお願いしたい、というスタッフに、
「バカじゃないの?」「演歌の歌い手がポップスを歌ったって、無理がある」「ゴールデンでやるの!?誰も見ないよそんな番組」
と、せっかく民放ゴールデンで演歌歌手が出演する貴重な番組だというのに、コンセプトを否定し、さんざん文句ばかりいう細川(笑)。

スタッフが「さよならイエスタデイ」を歌ってほしいと伝えると、
「ハハハハハッ。これダメだな。さよなら!」
「前田の(歌)? それは無理だろやっぱり。あいつ声高いし」
「こんなに口まわらないでしょ。言葉の歌い方が違う。日本語ではっきり歌っていないところがいいじゃないですか。桑田くんもそうだし、前田もそうだし」

…と早口で語り、これだけ口が回れば歌えるのでは?と字幕でツッコまれます。サザンオールスターズの桑田佳祐は「桑田くん」と呼んでいるのに対し、TUBEの前田亘輝は「前田」と呼び捨て。もしかしたら、呼び捨てにできるほど実は親しくて、交流があるのかもしれません。
「練習する時間?そんなにないけど、新幹線とか飛行機の中でずっと聴いていれば覚えられるんじゃないの? ハハハハハッ」と余裕の表情。

大トリとして歌唱。今回の出演歌手が皆、演歌の歌い方を意識して抑えめにしていたのに対し、細川たかしはもう明らかに演歌そのもの。いつも通りの歌い方で、ちっともポップスに寄せていません(笑)。でも、素人にもハッキリ分かる、圧倒的な歌声。想像のはるか上をゆく声量とハリに、聴いているゲスト陣も笑いが止まりません。人間は、理解を超えたものに出会うと笑ってしまうのです(笑)。常時マイクを15cmから20cm離して歌い、ロングトーンで声を張る所は、さらにお腹の前あたりまでマイクを離すことも。今日のすべての出演歌手が、最後に細川たかし聴かせるための前フリであったかのような感覚さえ覚えました。

さて7組ずつ歌い終わり、観客100人による審査結果は…?
最後の細川たかしのインパクトの余韻が残る中、もはや紅白どちらが勝つのか、なんてどうでもいい雰囲気になってる気がしますが、白組59、紅組41で、白組の勝利でした。
 

「エンカのチカラ」がヒントに?

「演歌の乱」の番組アイデアの発端として、おそらく日本コロムビアが発売した「エンカのチカラ」シリーズの存在があったのは間違いないと思います。

「エンカのチカラ」は、演歌歌手がJ-POPをカバーした音源を集めたコンピレーション・アルバム。
演歌歌手はそもそも、オリジナル・アルバムを作ることが極めて少ないです。(昔はたくさんあったと思われますが)
アルバム用に書き下ろしの曲を作ることは極めて少なく、シングル曲とそのカップリングを集めた「全曲集」やカバーアルバムを出すのが精いっぱい。アルバムの中でJ-POPの楽曲をカバーすることがたまにあったものの、めったに陽の目を見ることがなかったのでした。そういった曲ばかりを集めて、その歌唱力にあらためてスポットを当てたのが「エンカのチカラ」でした。

あの発売当時に、この「演歌の乱」のような番組が放送されてもよかったのに…。

(参考記事)
・演歌歌手によるカバーソング集『エンカのチカラ』新作が11月に発売へ なんと新録が13曲も (2014/10/28)

エンカのチカラ プレミアム(赤盤)「エンカのチカラ プレミアム(赤盤)」
 

細川たかしが「さよならイエスタデイ」を歌ったのは初めてではない

TUBEなら他に「シーズン・イン・ザ・サン」とか「サマー・ドリーム」とか、もっとヒットした曲はあるのに、なぜこの曲が選ばれたか疑問に思いませんでしたか? 確かに「さよならイエスタデイ」は高音部で伸ばすロングトーンが頻出するので、細川たかしのボーカルの凄さを実感してもらうのには適した曲であるのは間違いありません。
番組内で細川たかしは「さよならイエスタデイ」なんて歌ったことがない・こんな高い声は自分には出せない、といったフリを見せていました。

でも、実はそうではありません。前述した「エンカのチカラ」の2014年盤に、細川たかしが歌う「さよならイエスタデイ」が収録されています。これはさらに以前、細川たかしが以前歌ったもの。調べてみると初収録は、1995年発売の細川たかしの企画アルバム「ポップス歌謡のすべて」でした。

まあ初収録したアルバムが出てから20年以上たっていますし、おそらく通常のコンサートで歌われたことはまずないと思われますので、もう完全に忘れていて、実質的に「知らない歌」であったのかもしれませんが。
 

藤あや子、香西かおりが歌ったのもアルバムに収録済みの曲だった

藤あや子は、2017年に発売した『GENTLEMAN~私の中の男たち~』を中で、小田和正「たしかなこと」をカバーしています。このアルバムは、男性ボーカルの曲ばかりをカバーしたもの。今回初めて歌ったかのような演出になっていましたが、実はしっかりレコーディングしたことがあったのです。

香西かおりも、2017年に発売したアルバム、その名もズバリ『香西かおり 玉置浩二を唄う』の中で「悲しみにさよなら」をカバーしています。

こういった事実を伏せて、他の歌手と同じように「歌ったことのないポップスに挑戦」「歌いこなすために練習」という演出がなされたことには、疑問を感じました。

GENTLEMAN/藤あや子『GENTLEMAN~私の中の男たち~』藤あや子
香西かおり 玉置浩二を唄う『香西かおり 玉置浩二を唄う』
 

細川たかしは「MC」だったのか?

直前に、ネットニュースや番組表での情報で「細川たかしが初MCに挑戦!」と煽られていました。でも、司会進行はあくまで東野幸治。細川たかしは「白組応援団長」、渡辺直美が「紅組応援団長」でした。番組中で細川がMCと呼ばれた様子はありませんでした。

歌い終わる度に、3人がステージに出てきて、歌手を囲んで感想を言ったり、他の聴衆ゲストに感想をふったりするものの、細川たかしは黙って横にいてニコニコしているだけ。

番組中、細川が自分の出番以外で言葉を発したのは…

大江裕に「小指はいったい何なの?」
石原詢子の感想をふられて「なかなかすごいよね。敵とは申せ、立派なもんだなと」
山川豊の紹介で「演歌界で一番背が高い。スラッとしていてカッコいい。この男しかいない!」。歌を聴いた後に「ボクシングやってるからね。いかんせん今は偉くなっちゃってるけど。今はトレーナーの資格も持ってる」と、歌の感想とは全く関係ないコメント。
香西かおりに(知らない課題曲を与えられた他の歌手と違って)これは玉置くんの歌だから。そういう意味では、うまいこと、ラクな歌を歌ったんじゃないの?」と冗談めかして皮肉を。

たったこれだけです。編集でカットされたのかもしれませんが、ほとんどしゃべっていません。贔屓目に見たとしても「MC」としての役割を果たしているとは言い難いです。
香西かおりに対して「ラクな歌を歌った」と言っていますが、その意味では、かつて一度アルバムでカバーした歌を持ってきた、細川たかし自身もそうですよね?(^^;

おそらく、細川さん自身もMCをやったつもりはなく、「初MC」という宣伝文句は、収録が終わってから番組PRのために後付けされたのではないかと推測します。最後に大トリとしてあんな素晴らしい圧倒的な歌唱を披露して、オイシイところを全部持っていったのですから、「初MC」というにぎやかしはいらなかったのではないでしょうか…。もっとしゃべったり、他の歌手をいじったりするのを期待していたファンは肩透かしをされたと感じているかもしれません。
 

シリーズ化を期待

かつて「カラオケ★バトル」には時々プロの演歌歌手が出演していましたし、さくらまやが様々なポップス曲で高得点をたたき出して「カラオケクイーン」と呼ばれたこともありました。でもそれほど話題になりませんでした。
今回、紅白出場経験のあるベテラン歌手も多く出演したうえ、けっして得点を取るためでも、勝敗を決めるため(誰かを負かすため)でもなく、オリジナル曲にリスペクトを払いつつ(←ここ大事)、視聴者に歌を聴いてもらうための番組になっていたのがよかったと思います。

ツイッターでは「#演歌の乱」のハッシュタグを付けた感想ツイートが多数。普段演歌を聴かない人たちの心をこれだけ動かしたのですから、番組としては大成功だと思います! 私のように演歌歌手の歌唱に普段からふれていると、それを当たり前だと思って忘れてしまいがちなのです。でも反響の大きさに、いかに彼らの歌唱がプロとしてハイレベルなのかを実感しました。そこにスポットを当ててもらえてうれしく思いました。

ただ、歌っている最中に、観客の「おぉー(驚)」「わぁー(喜)」という声を入れたり、画面を頻繁に切り替えて、やや大げさに驚く表情を見せるゲストたちの表情を挟み込む見せ方は、個人的には苦手です。(^^;
まるで、素人向けのカラオケのワンポイントレッスンのように、大して難しくない所を無理やり「難所」に挙げて、「果たして歌えるか?」と煽る見せ方も、「プロ歌手なんだからそれくらい歌えるだろ…」と思いながら見ていました。
歌ったことがある曲なのに、それを伏せて「今回初めて挑戦しました」という体で歌った歌手がいた演出には疑問を感じました。また「石原詢子が紅白出場時に対戦したのは、今話題のDA PUMP」といった、それ必要?と思わずにいられない情報や、走裕介を漁船に乗せたり、城之内早苗に馬肉を食べてもらったり、絵作りのためなのか、ややピントのずれた演出もありました。

もしかしたら演歌ファンからは賛否両論あったかもしれませんが、私はいち視聴者として、とても楽しむことができました。さらに多くの人に、演歌歌手の歌唱力の高さを実感し、ヒット曲が違う魅力を放つ瞬間を楽しんでもらうためにも、ぜひシリーズ化されることを希望します。

今回、番組にゲスト(審査員?)の一人として出演するAAA(トリプル・エー)のメンバー・浦田直也が、幼い頃から演歌を歌っていた(!)というのは初めて知りました。

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