編曲家・前田俊明氏 死去 70歳 数多くの演歌・歌謡ヒット曲のアレンジを手掛ける

青空と街

・「二輪草」「函館本線」「こころ酒」編曲家の前田俊明さん死去 70歳 スポニチ
・作曲・編曲家の前田俊明さん死去 「二輪草」で日本レコード大賞編曲賞など受賞 サンスポ
・作曲・編曲家の前田俊明が死去、享年70 (全日本歌謡情報センター)

編曲家の前田俊明氏が死去…。

数々のヒット曲のアレンジを手掛け、また、日々生まれる新曲のアレンジを手掛け続ける、演歌・歌謡界を支える大きな大きな存在の方でした。70歳。
昨年11月に脳腫瘍が見つかり入院。4月17日に亡くなったとのこと。

私が演歌の世界に携わるようになった当時から、既に前田先生は最前線を走り、大活躍する人気アレンジャーのお一人でした。川中美幸「二輪草」、藤あや子「こころ酒」「むらさき雨情」、水森かおり「鳥取砂丘」…。枚挙に暇がない大ヒット曲の実績はもちろんのこと、驚くべきは、手掛けている作品数の多さでした。毎月たくさん発売される演歌の新曲のうち、もう3分の1くらいは前田先生の編曲なんじゃないかと思うほど。他の編曲家と比べても数は段違いで、明らかに集中している、そんな時期がありました。

私はかつて、そんな多忙な前田先生に、編曲家としてのお仕事全般についてインタビューする機会がありました。15年以上も前の話です。
今回、訃報を聞いて少々落ち込み、心の整理をするため、その時の文字起こしをPCから掘り起こして、久しぶりに読み返してみました。すると… もう、一言一句、すべてが興味深い! 「ええぇ?! よりよい作品をつくるために、そこまでやりますか!」と驚きの連続でした。第一線で活躍するプロフェッショナルの仕事へのこだわり、情熱を、あらためて感じたのでした。
ちょっとだけその内容の一端にふれつつ、前田先生を偲びたいと思います。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
このブログを読んでくださっている方には説明不要とは思いますが、そもそも編曲家とは?
歌手が歌う部分のメロディー(旋律)を作るのが作曲家で、歌のバックで流れる「オケ」の部分を作るのが編曲家(アレンジャー)です。多くの場合、イントロを作るのも編曲家の仕事です。ドラマティックなイントロも、歌を追いかけるように入るギターのフレーズも、壮大なストリングス(弦楽器)も、絶妙に入るパーカッションも、すべての楽器パートの音は編曲家が考えるのです。
スタジオでは、ミュージシャンのために譜面を用意し、彼らに指示し、自ら指揮しながら録音する…という感じでしょうか。

演歌の世界のレコーディングは独特です。
プロのミュージシャンたちは、大体その場で譜面を渡されて初見で演奏し、数回あわせた後に、もう本番の録音に臨みます。楽器ごとに別々に録るのではなく、一斉に演奏する(=同録)のが基本。(※ボーカルだけは後日録るのが普通)
レコーディングに使うスタジオは、当然使用料がかかります。スムーズに終わればよいのですが、何度も譜面を手直ししたり、演奏をやり直したりしていると、それだけ時間がオーバーして使用料がかさみ、制作費の予算を圧迫します。そのため、できるだけスムーズに、効率よく作業を進めなければなりません。
前田先生によれば、オケのレコーディングにかけられる時間は、慣習的に「1曲につき1時間」。そんな短い時間なのです!(°_°)

前田先生が実践していることとして教えてくれたのは、例えば…

「スタジオ内を移動する時は、すべて小走り」
「プレイバック(いま録音したものを聴き直すこと)の回数は最小限に」
「いちいちミュージシャンの所まで行かず、マイクで指示を出す。譜面の修正もミュージシャン自身にやってもらう」
「音程の指示を正確に行うため、必ずギターを持ち込む」

…などなど多数。文字通り1秒単位で時間を節約するための、あらゆる創意工夫をしているのでした。時間のこと以外にも、どうしたらミスをなくし無駄を省けるか、思い通りの音を出せるか、仮歌に臨む歌手の緊張をほぐせるか、何十年も研究しつくして、自分のスタイルになったのだそうです。

そんなことを踏まえつつ、特に印象的だったのは、次の言葉でした。

「アレンジャーというのは、肉体労働者なんです」

決して権威などなく、優雅に振る舞う芸術家でもなく、誰かに使われ、現場で大荷物を抱えて、常に走り回っている存在なのだと。常に現場に身を置いて新しい情報を取り入れ続けないと、取り残される。だから毎日のように仕事をしているほうがいい、とも。アシスタントのような人もおらず、スケジュール管理や資料整理など、全部自分でやっておられるようでした。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

私がちゃんと取材させていただいたのは1回だけ。あれからずいぶん時間もたっているので、その後、仕事に対する前田先生の姿勢や考え、環境はもしかしたら変わったかもしれません。今読み返しても、前田先生の仕事への熱いこだわりと、優しいお人柄が伝わってきます。自分の仕事への向き合い方にも参考にしたくなるような、とても貴重で、いいお話を聞かせていただきました。

「いやあ、こんなふうに仕事の内容について取材されるなんて、初めてですよ。こんな話で記事になるのか…」

取材が初めて、という意外な言葉がホントだったのかは分かりません。とても謙虚に、うれしそうに言ってくださったのを覚えています。

さて、多くの歌手が、訃報を受けてブログやツイッターで悲しみの声を綴っています。

・藤あや子ブログ 「悲しいお別れ」(2020/04/20)
・水森かおりブログ
「前田俊明先生」(2020/04/20)
「前田俊明先生との思い出」(2020/04/21)
・天童よしみブログ 「訃報が届きました……」 (2020/04/21)
・坂本冬美 冬美便り「前田俊明先生」(2020/04/21)
・石原詢子ブログ 「永の別れ」 (2020/04/20)
・市川由紀乃ブログ 「前田先生、ありがとうございました。」 (2020/04/20)
・大石まどかブログ 「前田俊明先生。」(2020/04/20)
・多岐川舞子ブログ 「先生の後ろ姿」 (2020/04/20)
・永井裕子ブログ 「改めて」 (2020/04/20)
・椎名佐千子ブログ 「ありがとうございました。」(2020/4/21)
・竹川美子ブログ 「ありがとうございました。」 (2020/04/20)
・花咲ゆき美ブログ 「前田先生、ありがとうございました。」(2020/04/20)
・野村美菜ブログ 「前田俊明先生」 (2020/04/20)
・出光仁美ブログ 「前田俊明先生」 (2020/04/20)
・松原健之ブログ 「先生方とのお別れ。」 (2020/04/20)
・松尾雄史ブログ 「寂しくなります。」(2020/04/20)
・水城なつみブログ 「ありがとうございました。」 (2020/04/21)

水森かおりが、以前ラジオ番組で「水森かおり作品の中で好きなイントロをリスナーに選んでもらう」という企画をやったところ、ベスト3すべてを前田先生の作品が独占した…というエピソードが象徴的で面白いですね。

近年は、歌手がブログに上げるレコーディング時の写真などで、前田氏の姿をお見かけする程度でした。いつからか帽子(テンガロンハットなど)をかぶる姿が多くなり、それはオシャレの一環だったと思うのですが、もしかしたらご病気と関係あったのかもしれません…。

イントロから歌の世界を表現し、感動的に盛り上げ、聴く人の心を引き込むのに、編曲家の力がいかに大きいか…。演歌に限ったことではありませんが、ここを読んでくださっている方であれば、日々それを実感しながら音楽を聴いていると思います。
前田俊明先生、数々の名曲アレンジを、本当にありがとうございました。

・Wikipedia - 前田俊明 (※編曲を手掛けた主な作品のリストあり)

関連記事

ページ上部へ戻る