山口瑠美20周年記念コンサートレポ “花咲く旅路”は笑顔に包まれて(2/2)


 <第二部>

真っ白い着物の山口瑠美がステージ中央に。第二部は長編歌謡物語「白虎隊」からスタート。山口瑠美の歌世界を語る上で欠かせない「長編歌謡物語」とは、独自に名付けられたジャンル。歴史物語などを題材に、歌・台詞・語りをすべて一人で演じるものだ。いわゆる「歌謡浪曲」が歌+台詞で構成されるのに対し、さらに講談師のような語りまで加えるのが「歌謡物語」の特徴である。

長尺ゆえ、まず時間が必要なのと、歌手・観客ともに歌に集中できる静かな環境が確保されなければならないので、ステージで披露される機会は滅多にない。ただ、見た人は時間を忘れて物語に引き込まれ、強烈な印象を残すはずだ。この「白虎隊」は、2007年に発表された、歌謡物語だけを集めたアルバムに収録。

本編だけでなんと15分半。さらにナレーションによって会津藩の後日談が語られるので、その部分も含めると計18分超(!)の大作である。戊辰戦争で若い命を散らした白虎隊の悲劇を熱演し、大きな拍手を浴びた。

再び司会の東玉助氏が登場。ずっと見守って来たからこそ、山口が20周年を迎えたことが感慨深い様子。

「デビューするだけでも大変でございますが、20年を迎えられたというのは、これはもうひとえに皆様のおかげでございます。あらためて私からも感謝を申し上げます。本当にどうもありがとうございます」

赤い着物に着替えて山口が登場。最新シングル「恋ひととせ」のもう一つのカップリング「お酒の歌」。優しげなワルツに乗せて「♪飲みましょう 飲みましょう」と歌う。元々、この曲の原型となるものがあり、それは故郷・岩国市にある五つの酒蔵(醸造元)=五蔵(ごくら)の酒を題材に、自ら詩を書いて作った曲だった。五橋、黒松、獺祭、雁木、金雀という固有の酒の名前が出てくるユニークな内容で、全国的に有名になった旭酒造の「獺祭」もその一つ。つまり5番まであったわけだが、その後CDに収録されるにあたり、友や父と酒を酌み交わす際の気持ちを歌った、3番までの歌詞に改訂された。

ここで、今回のコンサートのタイトル「花咲く旅路」について説明。それは山口の、決して順風満帆ではなかった歌手活動と関わりがあった。1999年に「音頭水戸黄門 ああ人生に涙あり」でデビューしたものの、“いろんなこと”が起こって、デビュー早々、満足に活動できない時代が長く続くことに(※筆者注:この間にWeb制作会社で働き、ホームページ作成の技術を身につけている)。しかしその間も必ず、テイチクレコードのディレクターの誰かが彼女の手を引っ張り、叱咤激励してくれた。おかげで20年間、本人曰く「テイチクレコードの隅っこ」でお世話になっている。とはいえ“いろんなこと”があった時期はボロボロの生活で、「人間は、希望の光が少しでも差さないと、真っすぐ歩いていけない」ということがよく分かった…と振り返る。

当時、いろんな人が言った。「瑠美さん、そうは言っても、抜けないトンネルはないんだよ」。またある人はこうも言った。「冬の後には、必ず春が来るんだよ」。

その言葉に頷いたものの、もう日が差すことすらないのでは…と思うほど当時は卑屈になっていたと語る。

「でも20年たった今、暗い闇の中にも、真冬の酷寒の中にも、花はちゃんと咲いているんだということを、自信を持って言うことができます(拍手)。振り返ると、どんなことも全てが花に囲まれた旅路だったなと。そう思って『花咲く旅路』というタイトルを付けた次第です」

客席のあちこちから「瑠美ちゃん!」「最高!」と掛け声。そして今日の舞台のために、自分で詞を書いた未発表曲をここで初披露。コンサートタイトルになった、「花咲く旅路」である。

ピアノとストリングスの音をメインにした、4拍子のバラード。母への感謝など、自身の境遇も歌い込みつつ、母に向けて、そして自分に言い聞かせるように、目指す場所がたとえ遠くても、歩きましょう…と呼びかける内容。
全部聞き取れたわけではないが、2番の歌い出しには、こうあった。

「見上げた空に 羽ばたく鳥たち 遅れて急ぐ一羽に 身を重ねる」

……。

…なんて切ない言葉だろうか。山口がずっとそんな想いを抱えてきたこと、今回どんな想いでこの詞を書いたかを想像すると、胸が痛くなる。

歌番組に何度も出演し、年間で何十本もコンサートを行い、大劇場を満員の観客で埋める。そんな歌手はごくひと握りだ。20年の間に、自分よりも後にデビューした歌手がどんどん現れ、見えない力に押し上げられて華やかな舞台に出ていく。それを傍目で見ながら、決して口には出さずとも、もどかしい気持ちがなかろうはずがない。芸能界は理不尽なことだらけだ。

それでもこうして今、「花咲く旅路」という、自らの道のりを肯定する、彼女なりの輝きを持った言葉にたどり着いた山口瑠美の強さに、私は心から拍手を贈りたいと思う。彼女のブログやツイッターを見れば、散歩の途中や旅先で見つけた花の写真が多く載っていることに気付くだろう。20周年記念曲「恋ひととせ」で「どこに咲いても花は花」と歌っているが、この歌に出会うよりもずっと前から彼女は、どんな小さい花にも凛とした美しさがあることを知っていた。

自分を嘆いたり、他人を羨ましがったりしているうちは見えないものがある。でもやがて気が付くのだ。一人きりで、真っ暗な中を手探りで歩いていると思い込んでいた道の脇にも、実はたくさんの花が咲いていて、いつも見守っていてくれたことに。そんな自分もまた、立派に咲く花の一つであることに。「花咲く旅路」がいずれCD化される機会があるかは分からないが、今日この場で聴いてこそ、大きな意味のある歌だった。この歌に込めた彼女の決意を、私もしっかりと受け止めたい。

ここで、来場客からのプレゼントコーナー。手土産やお祝いの品を渡すための行列がなかなか絶えない。実は私も、形だけでも…と思いささやかな品を用意していったのだが、行列があまりに長いので諦めた(後でスタッフにお渡しした)。受け取った品々はステージの後ろに並べられていく。

最後の最後に、前方に座っていた熱心なファンの方が、「20」の数字のバルーンを渡した。今回、ステージ上ではスクリーンに写真や映像を映す演出はなく、20周年を示すような飾り付けもなかったので、これほど気の利いた贈り物を事前に準備していた心遣いに私は大変感心した。おかげで、グッと「20周年コンサート」らしくなった。

感謝を述べつつ、「明日からまた、一歩一歩進んでいくだけです」と前置きし、「幸せ一歩」。「北しぐれ」(2013年)のカップリングに収録された明るい曲。これからも変わらず、自分のペースで一歩ずつ歩いていく…という今日の決意にぴったりの歌だ。

「振り返ると、いつも明日のことで精一杯、今のことで精一杯…を繰り返しているうちに20年たったような気がいたします。きっとそういう性分なのだと思いますので、明日からもまた一歩一歩進んでいく、そんな歌い手人生を歩めたらと感じております」

そして声に一段と力を込め、あらためて感謝の言葉。
「この20年、たくさんの方の応援を頂き、歩かせていただきました。あらためて皆様、本日のお運びに深く感謝を申し上げます。ありがとうございました!(大拍手)」

ここで、客席にいる特別な方々を紹介。演歌歌手の仲間、竹川美子、瀬口侑希、山口ひろみ。「最も敬愛する歌い手の先輩。姉のような存在」という、公私ともに親しいシンガー・山野さと子さん(「ドラえもん」「メイプルタウン物語」などのアニメ主題歌で誰もが聴いたことがあるはず)。山野さんつながりで縁ができたという、声優界のレジェンド中のレジェンド・神谷明さん。ちなみに筆者は「今年の『CITY HUNTER』劇場版、映画館で観ました! すごく楽しかったです!」と駆け寄ってぶんぶん握手したい衝動を必死に我慢していた(笑)。その他にも、お世話になっている関係者、市川昭介氏門下の先輩歌手などが来場していた。また「恋ひととせ」「紅殻情話」を作詞した、作詞家・森坂とも氏もいたようだ。

次の曲が最後であることを告げられ、「え~」と客席からため息が漏れる。
「うふふふ(笑)。皆さんには帰る時間がございます」

最後の曲は、冒頭でも歌った今年2月発売の最新曲をフルコーラスで。テイチクレコード6人目のディレクター、笹木ディレクターが彼女に与えた20周年記念曲、「恋ひととせ」

演歌色のない、大変美しいバラード。実らなかった恋を振り返る、女性のモノローグで歌詞は綴られる。おそらく誰の目にも「かわいそう」とか「不幸」と映るであろう中で、主人公は「いいえ私は幸せでした」「叶わなくても恋は恋」と歌う。はかなげな声で歌われるが、決して悲しんでいるだけではなく、すべて乗り越えたからこそ笑顔で語っている強さも感じる。サビに「いいえ」と、強く否定する言葉が置かれたインパクトは大きい。
私が個人的に好きな部分は「あえかに咲いても花は花」。「あえかに」という日本語の美しい響きと、「咲いても」で1オクターブ上がるメロディーの美しさに、何度聴いても心がキュッとなる。
歌われているのは「恋」だが、私は聴きながら「夢」と置き換えずにはいられない。さらに言うなら、山口瑠美自身の歌手としての「夢」と重ねずにもいられない。たとえ叶わなかったとしても、それに懸けた日々に意味を見いだし、幸せと感じるかどうかは自分次第だ。他人にどう言われようと。

山口がいったん舞台から去り、アンコールへ。しばし短い時間の後、再び舞台へ。

「皆様、本日はご来場いただきまして本当にありがとうございました!(大拍手) また皆様に元気にこうしてお目にかかれるように、頑張って歌っていこうと思います。最後の曲は、デビュー曲。この曲に励まし続けられて、歩くことができました。「音頭水戸黄門 ああ人生に涙あり」!」

最後は明るくにぎやかに、デビュー曲! イントロや間奏で、客席から力強い「あヨイショヨイショ!」の合いの手。「音頭」なので、間奏では山口がステップを踏みつつ、両手を軽く横に突き出して踊るような振り付けがお決まりである。笑顔で歌う様子を見ていると元気が出るし、気が付けば後で口ずさんでしまっている、不思議なパワーを持った歌だ。

山口がデビュー当時、ドラマ「水戸黄門」の制作会社が所属事務所であったことや、実際に「水戸黄門」に出演したという経緯を知らなければ、なぜこれがデビュー曲?と不思議に思う人も多いかもしれない。彼女はこの歌に励まされながら、大切に歌い続けてきた。歌自体はあまりにも有名だが、あらためて聴くと歌詞は深い。特に2番。「あとから来たのに追い越され 泣くのがいやなら さあ歩け」。そう、歩くしかないのだ。たとえ追い越されてしまっても、悔しさに立ち止まって泣いていたら、差は開く一方。そして、歩き続けていれば、どんなに時間はかかろうとも、きっとどこかへたどり着けるのだから。

ついにエンディング。先程歌った「花咲く旅路」が、今度はバンドによる力強いインストバージョンで演奏されるというニクい演出をバックに、締めの挨拶。

「本日はご多忙の中、日本橋公会堂にお運びをいただきまして、本当にありがとうございました(拍手)。明日からもまた、何があるか分かりませんが、一生懸命に生きているうちに、また20年たつようが気がします。どうぞ皆さま、この居酒屋瑠美がまた暖簾を掲げましたら、お気軽に遊びにいらしてください! ありがとうございました!(大拍手)」

深くお辞儀をして緞帳が降りる。こうして約2時間30分のコンサートは終了した。

終演後は、ロビーで山口瑠美が観客をお見送り。長い行列ができ、皆がお祝いや今日の感想を伝えていた。山口は一人一人と握手し、感謝の言葉を交わしながら見送っていた。

会場に見に来ていた歌手仲間の一人・山口ひろみは、感激したようで、大泣きしながら感想を伝えていた。互いに何でも打ち明けられるよき友人として、歌手としての悩みや苦労、母への想いを知っているからこそ、より心に響いたのだろう。山口瑠美ももらい泣きしていた。一緒に泣いてくれる友がいるって、いいよね。


(テイチクのインスタグラム。写真4枚が見られます↑)

 

 あとがき

正直に白状すると、前回(2017年10月)同じ日本橋公会堂で行ったコンサートは、やりたい事が多くてやや詰め込み過ぎた感があった。演歌、歌謡物語、小唄、懐かしい歌謡曲、グループサウンズ…と、もちろん個々の曲はとてもよく、楽しめたのだが、ゲストを立て、かつ自分の見せ場も作ろうとするあまり、全体的な曲構成の流れや、場面転換の「間」、なぜその曲をカバーして歌うのか?といった点において、分かりづらい部分があった印象は拭えなかった。
その時から比べると、今回はずいぶんと曲構成・演出の流れがスムーズになっていて(振り返ればカバー曲は「鳳仙花」1曲のみで、あとはすべて自分の曲)、なぜその曲を歌うのか、本人の想いも真っすぐ伝わってきた。

ファン目線で見ると、20年の歩みを写真や映像で振り返ったり、客席に降りて握手したりする場面が欲しかったな、とは思う(配布されたパンフレットには20年間の数々の思い出の写真が掲載されていた)。山口は歌に対して真剣であるがゆえに、「自分が見せたい世界を、いかに“ステージ上から”お届けするか」という視点に立つ意識が強いのかもしれない。楽しませ方はいろいろあって当然だし、「うちはうち、よそはよそ」と聞き流してもらって構わないのだが、ファンは歌手に近くまで来てもらって直接ふれあいたいものだし、ノリのよい曲で手拍子したいものだし、色の揃った公式ペンライトを振りたいものだし、お約束のところで掛け声をかけて盛り上がりたいものなのである。ファンの皆さんもそれぞれの考えをお持ちだと思うので、ぜひ感想を伝えてみてほしい。

余談だが…。
「花咲く旅路」というタイトルに込めた思いを、山口はこう語った。
「暗い闇の中にも、真冬の酷寒の中にも、花はちゃんと咲いている」。
私はそれを聞いて、ベット・ミドラーの歌った「The Rose」を思い出していた。もはや説明不要の名曲だが、オリジナルの英語詞を読んでみてほしい。

今回、会場を訪れたファンの皆さんはもちろん、行けなかったけれども遠くから公演の成功を願っていたファンの皆さんが日本の各地にいる。そしてレコード会社、放送局、マスコミ、CD店など、音楽業界に、彼女の魅力を認め、そっと見守り、エールを送り続けている理解者は、本人が考えている以上にたくさんいると私は信じている。

これまで出会った人たち、これから出会うであろう人たちが、きっと、彼女の行く道の両脇で花となって咲き、見守ってくれるに違いない。これからも続く彼女の歌の旅路が、たくさんの花に囲まれたものでありますように。

・山口ひろみブログ 「瑠美ちゃんのコンサートへ」 (2019/07/27)
・瀬口侑希ブログ 「山口瑠美さん20周年コンサート」 (2019/07/26)
・竹川美子ブログ 「山口瑠美さん」(2019/07/27)
・パンチ佐藤ブログ 「#4316 山口 瑠美 20 周年 ♪」 (2019/07/28)

・山口瑠美デビュー20周年記念コンサート 居酒屋の女将に扮してファンをおもてなし(うたびと)


 
→第一部レポート
・山口瑠美20周年記念コンサートレポ “花咲く旅路”は笑顔に包まれて(1/2)

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